臨床獣医師は不思議な仕事です。人間のお医者さんが自分と同じ人間の病の治療をすることには何の不思議さもありませんが、私達は異なる種族の病に向き合うわけです。そこには様々な矛盾、不思議さ、不都合などが存在し、それゆえの難しさが常につきまといます。しかしその反面、我々獣医師は日々すばらしく暖かい感情を実感し、目の当たりにしながら仕事をすることができるのです。あふれんばかりに全身を使って喜びを表現する犬たち、我々と全く同じように個性的かつ情熱的に愛情を表現する猫たち。わが子のごとく、恋人や親友のごとく、動物達と過ごす人々の尽きることの無い大いなる愛情、すばらしき世界。獣医師はそんな幸福な感情の中でいつも仕事をしています。私は獣医師として人間と動物達のこれらの暖かい愛情を真摯に受け止め、人間と動物達がよりよい関係で暮らしていけるように手伝っていけたら本望だと思い、獣医師を志しました。日々発展している獣医学はその進むべき方向を模索しながらすばらしい進歩を遂げています。それとともにそのあり方に熟成が求められてもいます。すなわち治療に伴う痛みや副作用に眼を向けぬなりふり構わぬ進歩を目指すのではなく、彼らが我々に注いでくれる愛情を受け止めながら、適切で最新の獣医学を彼らに「やさしい」方法で実践していこうという姿勢が求められている時代なのです。この「どうぶつ達にやさしい獣医療」こそが我々の目指すべきものと信じて仕事を続けていきたいと私は考えています。

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